【電気炉の使い方:基本編】
慣れてしまえばなんてことないのですが、初めて1人で運転するのは不安なもの。
このページでは画像を入れてわかりやすく紹介します。電気炉も各メーカーが色々出しておりますから、
下に紹介するものが全てに当てはまるとは限らないことをご了承下さい。また、下記データは
西洋上絵具についてのものです。ガラス、下絵付、1000度近い高温焼成の上絵では参考にしないで下さい。
金井景子の使用しているものは国産の100V15Aものです。耐火レンガ窯、200V25Aなどでは異なる点もあります。
*使い方・基本編では運転にあたって必要な知識を紹介。
*使い方:実践編では私の作品がどのような行程で焼成されたか、具体例を紹介します。
1.焼成の概略
焼成スタート 200-400度:あぶり焼成 400-450度あぶり焼成終了 最高温度 キープ時間 自然冷却 窯出し 0分 30-50分 50-70分 3ー3.5時間 0-30分 3-5時間 5時間ー ストップバーを上げあぶり焼成する オイル等の焼ける油煙、においが出る 油煙、においが無くなったら蓋を密閉する - 設定出来ない窯もある 蓋をしたまま冷却 100度以下になったら開ける まず、窯を使用する前日に空だき(中身を入れずに上記表の焼成をすること。内部の湿気を出す。これを怠ると全く艶が出ません)を500度キープ0分程度で行います。海外製の耐火煉瓦炉は空だきは不要な場合が多いです。 焼成時間は窯により差があるとは思いますが、800度でプレート2枚程度の焼成では3時間半程度の時間がかかります。陶板など重量があり熱が加わりにくいものや、大量に多数の作品を窯入れした場合、更に時間がかかります(以前25×18陶板5枚を焼成した時は倍の時間がかかりました)。
あぶり焼成時は必ず換気を良くして下さい。水溶性の溶剤を使用している場合、あぶり焼成時にはほとんどにおいはありませんが、においが出ないからといって有機溶剤の煙が体に良いとは思えません。換気扇が無い時は、窓を少し開けて、卓上扇風機等で煙を換気すると良いです。
2.焼成温度の設定 焼成温度の決定は、器の種類・使用している色・焼成回数によって変化します。この3つの条件を照らし合わせて最も妥当な温度に決めます(特殊画材はHPに掲載されている各画材の項目を参考にして下さい)。
絵の具830-800度 ブルー、グリーン、マロン、パープル系 810-800度 ブラウン他上記の色 780度前後 鉄系赤、肌色 760-700度 セレン赤、金彩、ラスター他特殊画材 器830度〜 磁器 810度〜 ボーンチャイナ 780度〜 タイル他釉薬の柔らかいもの 焼成回数第1焼成から最終焼成に向けて、通常徐々に下げていきます。 焼成温度が適当でないときれいに仕上がりません。低温すぎると、絵の具の艶がなかったり(拭くととれたり)、鉛等の有毒成分が残っていたりします。また、高すぎると釉薬トラブルが起きたり、色が飛んでしまったりします。うっかり温度設定をミスしてしまった場合、次の焼成で温度を調節すると良いでしょう。 3.キープ時間の設定 通常の上絵では15-30分です。熱のまわりにくい重量のあるものを焼成する時は更に長めにします。金彩、ラスター等特殊技術では短めでも良いようです。 4.金彩について 700度キープ0分でもほとんどの金は発色します。油性金液はあぶり焼成時にとてもクサイ油煙が出るので、換気に気を付けます。450度くらいまであぶりを長くしたほうが良いようです(水性金液も有機化合物が入っていますから、臭いが少なくても換気して下さい)。 5.焼成回数 第1焼成を高めにして、焼成が進むにつれて低く(若しくは同じ温度を保つ)します。金彩、セレン赤、特殊技術は通常最終焼成になります。焼成回数が進むにつれて色の発色が失われますし、器への負担・リスクも増しますから、最短焼成回数になるよう前もって計画を立てましょう。 6.窯入れの注意点 左のように小さい支柱を3,4カ所、ニクロム線に接触しないよう気をつけて配置します。やはり線に触れないようにして棚板(右画像の茶色い板)を置きます。 棚板を複数持っている方は、L字支柱を使って2段に重ねて2階建て風焼成も可能です。その場合、1階と2階での炉内温度が変わりますので注意して下さい(下段が低くなります)。通気性が悪いので、下段の換気が悪くなりきれいに焼成出来ないことがあります。 棚板には裏表のあるものもありますから、心配な場合メーカーに問い合わせて下さい。
左は窯の蓋についている色見孔です。色見栓を差し込んで孔を閉じますが、差し込む際に孔の周りのくずを炉内の作品に落下させたりするので、右にあるようにL字支柱を置くだけでも大丈夫です。中央画像はあぶり焼成時のもので、ツールバーを立てて蓋を半開きにしています。右はツールバーを下げ、蓋の孔も閉じた状態です。普段使用しない時はこのようにしておくと良いでしょう。 左画像はL字支柱です。大きさが色々ありますが、同サイズを3個は持っていると便利です。中央画像のように3点で高さを揃えて配置し、右画像のように作品の糸底を支えて焼成すると熱のまわりが良いですし、カップなどの立ち物とプレートを巧く配置して同時に焼成も可能です。棚板に直接置くよりも熱の伝わり方が均等になり、仕上がりがきれいです。左端の金属は、球状オーナメントなどを焼成するのに使います。 L字支柱で支える場合、釉薬のやわらかい器は必ず糸底で支えます。でないと、支柱が釉薬にめり込んで器に跡がついてしまいます。
左は三角棚にのせて入れたもの。右は断ち物を入れたところです。3つ足カップがさかさまに入っているのは、口の部分に釉薬が無い状態の商品だからです。内側に絵付した場合はこもるので、支柱で浮かせた方が良いでしょう(釉薬の堅い白磁なら、足を下にして焼いても良いです)。 いずれもニクロム線に三角棚・器は決して接触させないで焼成します。接触すると線が焼き切れてしまい、修理に大変な金額がかかってしまいます。
【悪い例〜下画像参照】
*左下はクリーマーの持ち手がニクロム線にくっついています。あまりギリギリに入れると振動(地震とか)で動いて接触することも。余裕を持って入れましょう。ポットは蓋をのせたまま焼成すると、釉薬が柔らかい場合、本体とくっついて取れなくなってしまいます。器の種類が不明な時は、パーツは分けて焼成しましょう。
*右は三角棚の悪い例です。上の2枚は皿どうしが接触、下の皿は棚に接触しています。釉薬がやわらかいとくっついてしまったり、接触箇所にへこみが出来てしまいます。
*窯の付近に化繊のカーテンがひらひら。大変危険です。あぶり焼成で蓋が開いている時はたまに様子を見に行きましょう。また、長らく同じ場所で運転するとフローリングが痛む例もあるようです。窯内部と床の距離が近い機種は鉄板を置くとか対策を練りましょう。
おまけの話・「どの窯を買うべきか」
「電気炉を買いたいけれど、お勧めはありますか?」という相談をよくうけます。メーカーによって種類は色々ですが、以下の点を比較してご自身に一番あったものを探してみてはいかがでしょう?
1.炉内サイズ・・・30センチ以上の大作をしょっちゅう描く方は40センチ内径が良いでしょう。ただし小さい作品を焼く時にも小型窯より電力がかかります。
2.電圧・・・100Vよりも200V、15Aより25Aと熱量が高い方が同じ温度設定でも艶が出ます。但し200V25Aは倍くらい電力を食います。また、電気炉の為に契約電力を上げた場合、窯以外の電化製品電力代も当然値上りしますし、200V回線を新設する場合の電気工事も状況によっては10万近くかかります。私の使用している窯は100V15Aですが、アメリカンタイプの製作には釉薬に潜る器を使ているので十分間に合っています。
3.温度・・・上絵しかしない方は950度くらいまで上がれば十分だと思います。1200度くらいまで上がるものもありますが、窯によってはニクロム線耐久が200回くらいしか持たないものもあります。また、1000度を超える高温焼成は焼成時間もとてもかかります。その間、電子レンジ、冷暖房、パソコン等の電化製品の使用を制限して良いという家族の了解はありますか?1000度を超えると窯周辺はとても暑くなります。
4.メンテナンス・・・窯が故障した場合のアフターケアも大切です。どういったケアをしてもらえるのか、販売員にしつっこく聞きましょう。将来の廃棄時に、自治体によっては電気炉は産業廃棄物扱いになるので、購入時に窯を廃棄する時の対応も聞いておくほうが良いと思います。
5.使用者の声・・・欲しい物と全く同じ機種を使っている友達などそうそういないと思います。教室で電気炉についての話題を出して、実際に使っている人から「あそこのアレはほにゃらら」と生の声を聞くと良いでしょう。
2003/5/19 金井景子制作2013/2/28追加記載 当ページの内容・画像の無断掲載・複写を禁じます