【電気炉の使い方:実践編】

慣れてしまえばなんてことないのですが、初めて1人で運転するのは不安なもの。

このページでは画像を入れてわかりやすく紹介します。電気炉も各メーカーが色々出しておりますから、

下に紹介するものが全てに当てはまるとは限らないことをご了承下さい。また、下記データは

西洋上絵具についてのものです。ガラス、下絵付、1000度近い高温焼成の上絵では参考にしないで下さい。

私の使用しているものは国産の100V15Aものです。耐火レンガ窯、200V25Aなどでは異なる点もあります。

使い方・基本編では運転にあたって必要な知識を紹介。

使い方:実践編では作品がどのような行程で焼成されたか、具体例を紹介します。


【作品の焼成例】
左のような絵の具+金彩作品では、まず絵の具の制作を完了されます。その際は白磁なら830-800度、釉薬のやわらかいものなら800-760度で焼成します。3回程度でしたら、焼成ごとに温度を下げる必要は無いと思います。絵が完成したら、低温(760-700度)で金彩を施して完成です。もし金彩で失敗した場合、修正加筆して再度前回と同じ若しくは若干低く焼成します。他の例=アスタークリスマス風景

中央の作品のように、絵の具部分と金彩が隣接していない場合、高温に耐える金液を使用するのであれば同時焼成が可能です。左の葡萄皿は背景の絵の具と金がブッキングしているので、高温金でも焼成を分ける必要があります。他の例=風景セットワイルドローズ

右のさくらんぼのように赤い色がメインの作品は、白磁であっても焼成温度を上げすぎないよう注意します。風景画など、焼成回数がかさむことが予想された時は、まず赤以外の箇所を830-800度で仕上げ、周りの金彩と一緒に780-760度程度で赤を足すのも良いでしょう。さくらんぼの作品はまず葉を描き820度焼成、周りの黒ラスターと赤を同時に描いて780度焼成、金彩、盛り、赤の仕上げで760度焼成しています。他の例=フルーツ大皿にわとり

いずれの場合も、低温焼成まで進んでから高温にすることは避けた方が無難です。絵の具の作業が確実に終わってから、金彩・盛り等の低温焼成にとりかかりましょう。

【焼成各段階の実例】羽の蓋付き煎茶腕(セット画像はこちら
●第1焼成●830度キープ30分

蓋の羽、椀の黒パディングを施す。椀は立ち物で流れる可能性がある為制作後1日乾燥して焼成。

●第2焼成●830度キープ30分

第1焼成と同じ。全体に描き込みをする。黒パディングに色ムラがあったので再度塗り直し。

●第3焼成●760度キープ20分(画像無し)

椀に金下マットを加える。蓋は作業無し。

●第4焼成●760度キープ20分

蓋に銅色ラスター、赤ビーズを加える。椀には金下マットの上にブライト金をかける。ビーズの乾燥を1日待って焼成。

●第5焼成●760度キープ20分(画像無し)

蓋に金下盛りをする。盛りの乾燥を1日待って焼成。椀は作業無し。

●最終焼成●740度キープ0分

蓋の金彩、椀の内側の金彩と金箔を加える。

【焼成トラブルと解決法】
●高温で焼成したのに艶が出ない●

右画像は同じ釉薬の柔らかい皿に同程度の絵の具を付け、810度で焼成したものです(焼成日は異なります)。下の皿は成功例で、絵が釉薬に潜り皿全体に艶があります。上は失敗例です。絵の具の厚さ・色に関係なく画面全体がマット状になっています。このようなトラブルはいくつか原因が考えられます。

原因1.前日に空だきを怠った場合、炉内の湿気で皿全体がマットになることがあります。特徴として、絵の具の厚さ、色に関わらず皿全体がマット状になります。この場合、今後焼成温度を上げても厚く塗っても艶の出ることはありません。マット感を楽しむか、描き直しになります(残念・・・)。

原因2.ある特定の色のみいくら厚く塗っても艶が無い場合、その絵の具自体に原因がある可能性もあります。暗いグリーン、暗いパープル、ブルーによく見受けられます。毎回その色を使用するとそこだけ艶が無い時は、似たような色を混色によって代用します。

原因3.白磁の場合、薄く塗りすぎだとマットに見えることがあります。次の焼成でもう少し厚めに色を加えれば大丈夫です。なお、つや出し剤(フラッキス等)を添加される場合は「盛り・エナメルワークコーナー(現在準備中)」を参考に、割合と添加時のリスクをよく踏まえて行って下さい。

●焼成後こすると絵の具が落ちる●

グリーン、ブルーなど高温が必要な色に見られる現象です。無理にこすり落とさないで次回焼成時、温度を10-20度高く再設定するのと、キープ時間を長め(40分くらい)に設定してみましょう。陶板など熱のまわりにくい器だとなることがあります。

●絵の具が変色している・色が飛んでいる●

トラブルの多い色ごとにまとめてみました。

・・・セレン系は筆の洗浄不足による変色(画像参照)、高温による色飛びなど、鉄系は焼成のしすぎによる変色、混色による色負けなどがあります(詳しい性質は「絵の具の使用法」コーナーを参考にして下さい)。色飛びの場合はより低い温度で再度同じ系統の赤色加えて再焼成します。変色の場合より暗い色でカバーするしかありません。

グリーン・・・まれにカドミウム系で色飛びを起こす時があります。色見本を作って高温でも薄い濃淡があるか確認して下さい。また、ミディマイセン等粒子の細かい絵の具で、厚塗りにより焦げたような感じ(画像参照)になることがあります。残念、直りませんので、より暗い色でカバーします。1度に厚く塗らないで焼成ごとに塗り重ねるよう気を付けましょう。

ピンク・・・ピンクで厚く塗った箇所が茶色に変色することが希にあります。厚塗りによる不完全燃焼によるもののようです。これ以上変色箇所に色を加えず、あぶり時間を長めに取って再度焼成すると直ることもあります(直らないこともあります)。

 
●絵の具にヒビ(貫入みたいなもの)があり、釉薬ごと剥がれた●

絵の具の厚塗りが原因です。直らないどころが、焼成を重ねるごとに被害は拡大し、直すために加えた色によって更にひどくなったりします。これ以上焼かないのがベストですが、どうしても焼きたい場合は器への負担を軽くするため、完全に冷えてから窯だしするようにします。

●器の表面がざらざらしている●

艶はあるけれどなんだかざらつく時は、あぶり焼成時の換気不足のようです。棚板を2段にして下段で焼いた時や、400度に行く前に蓋を密閉した時に多いトラブルです。目の細かいサンドペーパーで軽く研磨するとマシになります(釉薬のやわらかい器は傷が付くので不可です)。

●焼成したら絵の具が涙の跡のように流れ落ちている・分離している●

制作時にオイルが多かったり絵の具が緩かったりすると、特に立ち物の場合重力に逆らえず流れることがあります。遅乾性オイルを使用している場合は、乾燥するまで2日程待って焼成すると無難でしょう。分離が起こっている場合は相性の悪いオイルを混ぜたり隣り合わせている場合が多いようです。いずれのケースも焼成後は濃い色で目立たないよう、カバーするしかありません。

●窯だししたら器が欠けていた、割れてしまっていた●

器が頑強で無いものは100度をきるまで窯だししないようにしましょう(見分けがつかないのなら毎回そうしましょう)。炉内が300-200度の時、急な冷却で割れたりします。また、元々器にヒビが入っていた場合、焼成途中で割れることがあります。

●アクセサリーなど小さい物はどうやって窯入れするの?●

気がついたら全部塗っていて窯に置けない。持っている手ごと焼くしかない!という愉快な経験はありませんか?右画像のように小さい陶板の裏側に予め器を貼って(両面テープを5mmくらいに切って貼ります)から描き、そのまま窯入れすると描くのも楽です。両面テープは焼き飛んでしまいますから大丈夫です。タイル裏面でも可能ですが、間違っても釉薬のかかっている表面では行わないで下さい。

●器の表面に針でつついたような点々・気泡が出来ている●

釉薬がやわらかい特殊なボーンチャイナは、焼成温度が高すぎると釉薬にトラブルが起こります。1度なると残念ながら直りません。素性のわからないボーンチャイナを入手した場合、まず760度で焼成してみます。その温度で絵の具が綺麗に沈んでいたら2回目の焼成も同じ温度にします。全く潜っていない場合は2度目の焼成から20度くらいずつ温度を上げて様子を見ると良いでしょう。

●元々金ラインが入っている器は何度で焼くの?●

どの程度の金で縁取られているかで異なりますが、800度で大丈夫です。大倉陶園などは良い金を使っているので、830度まで上げてもびくともしません。見た目「ピカピカー」といかにもチープな輝きを放つ時は、焼成を重ねるごとに更にちょろい輝きになるようです。あまりたくさん焼成しないで済む絵柄を選ぶといいでしょう。

●焼成途中で1度電源を切ってしまった●

地震などで途中で落ちた時は、前のプログラムが有効になっていることを確認してから再度スイッチを入れます。

●あぶり焼成中の臭いが気になります●

200-300度で発生するクサイ煙は、オイル等が焼き飛ぶ臭いです。金彩をしたり、絵の具をたくさん塗った作品をたくさん窯入れしたりすると比例して強烈になります。あまり体にいいとは思えない臭いです。私は「これは臭いそうだ」という時は窓に向かって扇風機をしたりして、速やかに換気出来るようにしています。なお、水溶性メディウムで描かれたものはさほど臭いませんが、有機化合物が焼き飛んでいることにかわりはありませんから、油断禁物です。


おまけの話:色見本の勧め

窯は買ったけれどいきなり作品を焼くのはやはり怖い。そんな方には持っている色で色見本を作ることをお勧めします。絶対使わなそうなもらいもののお皿でも良いですし、見た目にこだわるのでしたら陶板が良いです。まず器を定規で分割し、丸筆で濃淡をつけて見本を作ります。絵の具の正確な色もわかりますし、ブルーやグリーンは同じような色でも艶が出るもの、出ない物があるのでその判断も出来ます。せっかく購入した電気炉はどんどん活用しましょう。使ってこそ、自分の窯の癖がより早く掴めるというものです。

自作の色見本。メーカーごとに分けています。画像のものは色数が多いので、暖色と寒色に分けて制作しました。空欄があるのは、今後色を買い足した時に隙間にいれられるからです。

2003/5/23 金井景子 2013/2/28加筆

当ページの内容・画像の無断掲載・複写を禁じます

http://overglaze.net/