【メジュウム】

絵付で使用するオイル類(水溶性もありますが、一般的な名称なのでオイルで以下統一致します)は乾燥の速度、粘り具合など様々な種類があります。通常単独で使用せず、性質の異なった2種のオイルを組み合わせて使用します。どういった絵柄でどの特性を持つオイルを組み合わせるかによって、作品の描き易さや完成度にも大きな影響を与えます。描くアイテムにより、何種類かのオイルを使い分けるのが望ましいでしょう。
オイル属性 乾燥の速度 粘り 用途・特徴
油性
乾かない 重い(粘る) 細かい描画用。
程々 絵具の保存等。
ゆるやかに乾く(半日〜2日) 重い(粘る) 広い面の描画用。ヘビーコパイバ等。
程々 広い面の描画用。ライトコパイバ等。
早く乾く(30分〜3時間) 重い 細かい描写用。
軽い(さらさら) 細かい描写用。ラベンダーオイル等。
水溶性
ゆるやかに乾く 程々 細かい描画用。
早く乾く 軽い(さらさら) 細かい描画用。

*上記は更に植物性・鉱物性など素材によっても分類されます。

*ペン画、レリーフ用の特殊オイルは別項目で触れます。

これらのオイルは、相性が悪いと分離を起こしますが、うまくすると調合しての保存が可能です。従って、絵付教室によって先生が独自に混合したり、香料をつけて小分けにボトル詰め替えを行っており、生徒は自分が一体何のオイルを使用していてどのような性質を持っているのか全くわからないことも多いようです(名称も「描き油」「保存油」など、いいかげんなものです)。せめて自分がどういった性質のオイルを現在使用しているかわかるように、以下に様々なオイルの画像と、オイルの性質の見極め方を紹介します。

広い面の描写に適すオイル(アメリカンスタイル等)

【特徴】茶色がかった色のオイルが多い(植物性成分が素材になっているものは特に)。乾燥は早いものでも半日はかかり、その間なら筆で面を修正したりすることが可能。通常、不乾性オイルで固く練った物をパレットに保管し、使用時に遅乾性オイルで溶き直すが、不乾性のみで描かれることもある。速乾性のオイルは特殊なケースに単独で使用(絵具の細かい抜きの作業など)する。

左の画像は、国内の有名絵付画材店で取り扱われている、ゆっくりと乾燥し広い面の絵付けに適するものです(左端は左側2種の混合オイルです)。不乾性のオイルは薄い黄色で、機械油の為色はいつも同じです。遅乾性オイルは粘りが少ない方が広い面を滑らかに塗るには楽です。

 

植物性(バルサム)成分は仕入れによって色が若干変わります。右端の3種のオイルは、色がかなり違いますがすべてライトコパイバです。

描画用にアメリカンスタイルではよく使用されますが、独特のウッディーな香りがあります。左から2番目、3番目は不乾性のオイルです。不乾性のオイルは通常、香りはありません(香料で後付けされたもの多数あり)。

 

左の画像オイルは海外からの取り寄せになります。どれも何らかの香りつけと、複数のオイル調合がなされている様子です。左から2番目のオイルは2日程で乾燥しますが、その他は相当待たないと乾かない為、不乾性と考えて良いようです。

不乾性のみでの制作も出来ますが、色の定着が弱いので、焼成中立ち物の絵の具が流れやすいです。薄塗り・オイル過多厳禁での使用になります。

見分け方*速乾性は無色透明で通常刺すような揮発性の香りがあり、水のようにさらさらしている。これは以下のヨーロピアン用オイルと考えて除外(これらは刺激が強いので、決して以下の実験のように手には決して付けないこと)。そうではない黄色〜茶色いオイルを1、2滴親指と人差し指に付けてぺたぺたくっつけ合う。不乾性の場合、いつまでたってもぬるぬるする。付け始めてすぐべたべたするものは遅乾性「重いオイル」。数分するとくっつこうとぺちぺちしてくる。あまりに重く、筆がかすれる時には不乾性オイルと調合してべたべたを緩和しよう。手に付けてすぐはさらさらしているのに、数分すると強力にぺちぺちしてくっつこうとするものは、遅乾性の軽いオイル。そのまま描画用に使用出来る。

細かい絵柄に適するオイル(ヨーロピアンスタイル等)

【特徴】油性オイル(特に速乾タイプ)は強い揮発性の香りがあるものが多い。色は無色透明が多く(下右写真のテレピンは年代物になり濃縮したので色が濃くなっているだけで、通常透明)、5分〜1時間程度で乾燥するため、中焼きを入れずに上から描き足しが可能。通常単独では使用せず、粘りのあるオイルで溶いた後、少量の速乾性オイルで固さを微調整をしつつ描く。不乾性オイルとの相性が悪い為、上記の「広い面を描くオイル」の筆とは別に道具を用意したほうが良い。また、ブラシクリーナー(シンナー系の溶剤)を使用する場合、専用にして、遅乾性メディウムのブラシクリーナと兼用しないようにする。

 

このオイルは、グリンディングオイル(溶き油)のオイル加減と速乾性オイルの添加量によって、巧く描けるかそうでないかが分かれるので、固まりかけた絵の具をしつこく希釈して使用しないこと。また、溶き油と希釈油との相性が悪いと焼成後分離した状態に焼き上がります(速乾性オイルの分量が多すぎても同じトラブルが起こります)。

 

このオイル類は一筆でストロークを生かした絵柄に向いているので、大きな図案を描く時や、なで回すくせのある人はいっそ地塗りを不乾性オイル(広い面に適するオイル・上記参照)で仕上げましょう。

オイルの混合は不可能ですが、焼成を間に入れればその場に適したオイルでの制作が可能なので、第1焼成は不乾性オイル、第2焼成は速乾性オイルという芸当が出来ます。アクセントラインは、やはり速乾性の調合の方が切れが良く、美しく仕上がります。左はフルーツの瑞々しさの表現を容易にする為、アクセントラインの最終焼成以外はアメリカンの不乾性オイルで描いたものです。

 

左は最近勢力を伸ばしてきた水溶性オイルです(メーカーは各種存在する。画像のものは正直あまりお勧め出来ない)。上の伝統的なオイルに対し、香りと刺激が少ない為、オイル臭によるアレルギーがあるペインターにも支持されています。緩やかに乾燥するタイプと速乾性との調合で使用するが、速乾性オイルを水で代用するとこもあります。水溶性である為、当然油性道具とは筆等を分けて用意しなければなりません。

いいことずくめのようですが、広い面やアクセントラインには不向きです。また、溶剤によっては絵の具のよれが出来たり切れが悪いものも多く、これからの開発が期待されます。

見分け方*無色透明の品がほとんどです。瓶を振ってどろりとしているものは溶き油、水のようにさらさらな物は速乾性であることが多いです。水溶性の品はそう書いてありますので、ラベルで選びます。

おまけの話・「お急ぎ仕上げ作品・手抜き技」

急ぎの作品をそれなりの完成度で仕上げるには、1回の焼成で完成させることがベターです。が、速乾性のヨーロピアンはなにせ時間と手間がかかり(しかも、最後にしくじったらすべて描き直しというリスク付き)、とても明日のプレゼントには間に合わない!さくさくと仕上がるそれなりの見栄張り作品にしたい!という方への朗報。

左の2点は、金井景子がどちらも1回焼成で制作しました。これから紹介する方法は、水溶性オイルと油性オイルの「混じり合わない」性質を逆利用したものです。

 

1.水溶性オイルでライン描きをします。最終的に濃くなる箇所・アクセントラインに該当する所を重点的に仕上げます。

2.ドライヤーで乾燥させます(完全に乾くとマットな色になります)。

3.油性オイルで、グラデーションなど色の作業を行います。ゴムピックでスクラッチしたりしても、頑丈に定着しているので大丈夫です。アルコールではさすがにラインが消えてしまうので、使用しないようにします。

*金など付けたい場合は、予めデザインが金の箇所から離れるようにしておくといいでしょう。1の水溶性オイルでのひっかかりが画面にある為、通常の第1焼成よりも絵の具ののりが良いので、しっかりと色をつけることが出来ます。

2002/8/21 金井景子制作 2013/3/4加筆修正

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